なぜ自分で退職申出をしないのか
社労士(社会保険労務士)として働く中で、初めて「退職代行」なるところから顧問先へ退職届が届いたのは5年ほど前のことでした。所長をはじめ、私たち職員も初めて聞く「退職代行」という言葉に戸惑いながら、顧問先から教えていただいたその退職代行の会社名をインターネットで検索するところからの対応でしたが、このときすぐに『これは流行るな』と感じていました。
この背景には時代の変化があると思います。
例えば、小学校の給食で嫌いなおかずが出たときの様子が、私が小学生のころ(45年ほど前)と私の子どもが小学生になったとき(20年前)とではまったく違い、嫌いなものは食べなくて良いという風潮になっていました。
一言でいうと『嫌なことはしなくて良い』ということで、これが考え方のベースにあるのです。
であれば、残業もしないし、眠いとかだるいとかいう理由で簡単に会社を休みますよね。退職申出も、上司にグズグズ言われるかもしれないし、引き止められるかもしれないので『代行業者にやってもらったら良いか』となります。
『流行るな』と感じたのが5年前。
実際に、3年ほど前にはサブスクサービスを提供している退職代行業者も登場するほど一般的なものになりました。
ちなみに、退職申出を代行すること自体は法的には問題ないようです。一方で、弁護士以外の者が退職にともなう請求や交渉をすることは非弁行為に該当し、弁護士法違反となり得ます。退職申出の際は、大抵は未払い残業代や有休消化を請求しこれらについて交渉することがセットです。このため、これらの請求や交渉を弁護士事務所以外の退職代行業者がしてきた場合は『弁護士ではない人からのこのような請求は弁護士法違反ですよね?』と伝えたうえで退職申出について受理するかどうかだけを返事していただければ良いと思います。(弁護士事務所が退職代行をしている場合は、これらの請求に対応する必要があります。)
なお、退職代行業者経由の退職申出があった場合、対応方法をまず社労士にご相談いただくことも可能です。未払い残業代や有休消化への対応についても、社労士が現状を確認したうえでどう回答すれば良いかをアドバイスすることができますし、弁護士を紹介できる場合もあります。顧問弁護士がいる場合は、もちろん最初から顧問弁護士へ相談いただければと思います。
嫌なことはしなくて良い人たちに、どうすれば気持ちよく仕事をしてもらえるのか、経営者の悩みは尽きませんね。
著者
エアーズ社会保険労務士法人
加藤 由紀
https://www.ayersforyou.com/